第4話 古くて新しいオルゴール
ピンポロ〜ン!こんにちは。ボク、「オルゴール」。
今回からは、ボクの仲間を歴史的に古い順に紹介するね。
今回、ご紹介するのは、その名も「シリンダーオルゴール」。でもこれは全然古くなくて、今も主流になっているんだ。
このシリンダーオルゴールは、この前にもちょっと紹介したけど、その名の通り「シリンダー」つまり円筒が中心になっているオルゴールで、どこの家にも1台くらいはあるね。シリンダーにトゲのようなピンが刺さっていて、それが櫛歯と呼ばれる鋼鉄製の音階になってなっている薄い板をはじいて音をだす。
シリンダーが回るとピンが、出したい音の櫛歯をはじく。ピンは直径0.1mm程度。それがはじく櫛歯の先も実に細く出来ている。細くなくてもいいんだけど、実は細くすることで良い音の響きが得られるようにしていたり、あとあと重要な役割をするんだ。
シリンダーが、1回転すると、1曲が終わる。そのまま続けて2回転めにいけば、また同じ曲が流れていく。そんな単純な仕掛けだけど、良い音で鳴らすための工夫がいたるところに隠されている。
まず、櫛歯。櫛歯は、いわゆる髪をとかすあの「櫛」を想像してもらえば、ほんとに同じ形をしてる。
1本の櫛に1つのピンが当たることで音が出るのだけど、その振動が他にも影響を及ぼして鳴ってしまっては、何にもならない。そこで櫛歯は、当たり前だけど隣同士の歯との間にはごくごく小さな隙間がある。しかし、その根本はすべて繋がっているから、実際には多少の振動の影響を受けている。また空気の振動もおき、いわゆる共鳴現象を起こす。これがあの独特なオルゴールの音になるんだ。実際に1音だけがなっているわけではなく、同時にいくつかの意識しても聞こえない音が鳴っているっていうわけ。
また、この櫛歯の裏には、より深い音を出すために特に低音では裏側におもりが付けられているものもある。 このあたりは、高級品の世界なんだけどね。
昔はCDもないから音楽を好きなときに自由に聴ける機械ってボクだけだったんだ。だから1回転で1曲、つまり1台のオルゴールで1曲ってことで、ちょっと何曲も聴きたいという欲がでてくるよね。
そこで、1本のシリンダーで数曲を次々に演奏したり、自分で何曲目と指定して演奏できるように改良されていったんだ。
その仕組みは、ほんの数ミリ、いや1mm以下の世界で戦われている。さっきも言ったけど1回転で1曲は仕方がない。そこで2曲目のピンを1曲目のピンの横に植える。そして櫛歯も先の部分だけもっと幅を狭く削って隣の歯との間にもっと隙間を作って、2曲目のピンは歯と歯の間をすり抜けるようにするんだ。
1曲目が終わったら、シリンダーをちょっと横にずらして2曲目のピンが歯に当たるようにすると、今度は2曲目が演奏されるってことさ。
この方式なら歯と歯の隙間を通過できる幅分、ピンを増やし、その増やした分が曲数になる。といっても何十曲は無理だよ。多くても12曲とかが普通。
そこで考えた!音階は櫛歯で、これは普遍的。だからそのシリンダーを取り替えられるようにすればいい!今日はこの曲聴きたいなー。どのシリンダーに入っているのかなーと探してそれをセット。まるで今のCDとおんなじでしょ?
次の仕組みは、回転。
どんなに小さなオルゴールにも小さな羽根みたいなのがくるくる回っているよね。あれは空気抵抗で回転数を一定にしようとしているものなんだけど、その動力はゼンマイ。一般的な今のオルゴールはネジを巻いて何回か聞いているとだんだん曲が遅くなってきちゃう。当時はこれでは音楽を楽しむための機械としては不合格。
だからゼンマイがすべて終わる前に、つまり一定の動力で回転できる力のあるうちだけ、回るようにしてあったりもしたんだ。
そして、最大の工夫は、その回転数。長い演奏を楽しむためにはゆっくりゆっくり回転させなければすぐに1回転しちゃうじゃない。だからゆっくり回転させるようにしたんだ。ゆっくり回転させるとその分ピンも沢山植えなければいけない。そうしなければゆっくりの音楽ばかりになっちゃうからね。
あとはシリンダーを太くすること。
この2つの工夫点を生かし、最高に長い演奏ができるもので、1回転を5分17秒なんていうものあるんだ。名品だね。
そのほかにいい音楽を再生するためのいろいろな工夫が行なわれていくんだけど、それはまたの機会にしようかな。
そうそう、このシリンダーオルゴール、櫛歯の長さ15cmのもので4曲入り、1曲の演奏時間が50秒の場合、そのピンの数は3000本。1曲あたり750本のピンが植えられているという統計があるんだ。しかもすべて職人による手作業。
最後にオルゴールの正しい聞き方!オルゴールを手で持って耳に近づけて聞く姿を見るけど、あれではオルゴールの本来の音は聞けないよ!箱自体に共鳴するように作られているし、その振動はその箱をどこに置くかによっても変わってくる。
できるだけ共鳴できる空間のある台、机とか大きな箱の上に置いて聞いてよね。ぜんぜん音量も音質も変わってくるよ。
じゃーね。ピロリ〜ン!